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技術顧問とは?IT人材を採用できない会社で担う役割と依頼できること
技術顧問とは何をする人なのか。シニアエンジニアを採用できない企業に向け、技術選定、設計レビュー、AI活用、採用支援など依頼できる仕事と情シスとの違いを解説します。
社内にエンジニアはいるものの、技術的な方針を決められる人がいない。開発したサービスが、この先も安定して動くのか判断できない。採用候補者の技術力や、開発会社から届いた見積もりを評価できる人もいない。
こうした会社で、経営者や開発チームの相談相手になるのが技術顧問です。
私が見てきた採用現場では、ミドル・シニア層のエンジニアを正社員で採用するのは難しい一方、ジュニア層や実務経験の浅い人とは接点を持ちやすい状況があります。しかし、経験の浅いメンバーだけで開発チームを構成すると、実装は進んでも、設計や品質を誰が判断するのかという問題が残ります。
技術顧問は、開発作業をすべて引き受ける人ではありません。会社の外から経験豊富なシニアエンジニアが加わり、技術判断の基準をつくる役割です。
この記事では、技術顧問とは何をする人なのか、どのような仕事を依頼できるのか、IT顧問やCTO代行、情シスとは何が違うのかを、私の経験をもとに整理します。
技術顧問とは、会社に技術判断を補う人
技術顧問は、ソフトウェア開発に関する専門知識と経験を使い、経営者や開発チームの意思決定を支援する外部人材です。
例えば、新しいサービスをどの技術で作るのか、将来の機能追加に耐えられる設計になっているか、障害が起きたときに原因を追えるか、提示された見積もりや開発計画は妥当か。こうした判断には、コードを書けることだけでなく、開発から運用まで経験したうえでの見通しが必要です。
経験豊富なエンジニアを正社員で採用できれば、その人が技術判断を担えます。しかし、必要なタイミングで採用できるとは限りません。採用できるまで判断を止めれば、事業も止まってしまいます。
そこで、副業や業務委託という形でシニアエンジニアに入ってもらい、限られた時間で重要な判断を支援してもらう選択肢が生まれます。
ジュニア中心の開発チームに、なぜ技術顧問が必要なのか
ジュニアエンジニアや実務経験の浅いエンジニアを採用すること自体が悪いわけではありません。適切な仕事とフィードバックがあれば、開発へ貢献しながら成長できます。
問題は、チーム全体が同じ経験水準で、成果物の良し悪しを判断する人がいない状態です。
プログラムがその場で動くことと、顧客が使うサービスとして長期間安定して動くことは同じではありません。データの不整合、障害時の復旧、セキュリティ、変更時の影響など、リリース時には見えにくい問題も考える必要があります。
シニアエンジニアが技術顧問として関わると、実装を細かく管理するのではなく、次のような基準をチームに持ち込めます。
- どこまでを今回作り、何を後回しにするか
- どの設計なら今後の変更に対応できるか
- 本番公開前に、最低限どのテストを行うか
- 障害を検知し、原因を調べられる状態になっているか
- 技術的な問題を、いつ経営判断として扱うか
経験の浅い人へ仕事を任せるなら、同時に、その成果を評価して次の判断を示せる人が必要です。
エンジニアを採用できない会社が、採用の前に整理すべきことでも書いたように、先に外部の判断できる人を確保し、その人と一緒に採用可能な層を育てる方法は現実的だと考えています。
技術顧問に依頼できる仕事
技術顧問の業務内容は、会社の事業段階や開発体制によって変わります。私の場合は、主に次のような支援ができます。
技術選定と設計レビュー
利用するプログラミング言語やクラウドサービスを選ぶだけではなく、事業の目的、チームの経験、運用に使える時間、将来の変更を踏まえて判断します。
設計レビューでは、正常に動くかだけでなく、サービスを安定して運用できるかを確認します。障害時に調査できるか、データを安全に扱えるか、特定の人しか変更できない構造になっていないかも重要です。
要件定義・設計ドキュメントの作成
経営者や事業責任者が実現したいことを聞き、開発チームが判断できる要件と設計へ落とし込みます。
ドキュメントの目的は、立派な資料を増やすことではありません。何を作るか、何を作らないか、誰が何を判断したかを残し、開発途中の認識ずれを減らすことです。
PoC・プロトタイプの実装支援
助言だけでは判断できない場合は、PoCやプロトタイプを作り、技術的に実現できるかを確かめます。
私は必要に応じて、自分でも設計や実装に入ります。実際に手を動かして確かめることで、机上の提案では見えない制約を早い段階で発見できます。
見積もり確認とベンダー選定
開発会社から提示された見積もりについて、作業範囲、前提条件、体制、品質管理の方法を確認します。単に金額が高いか安いかではなく、その見積もりで必要な成果を得られるかを判断します。
開発会社の選定後も、発注側と開発側の間で認識がずれていないかを確認し、必要に応じて進め方を修正します。
システム開発を外注に丸投げしないためにで紹介したとおり、実装を外部へ任せても、目的、優先順位、品質に関する判断は発注側に残す必要があります。技術顧問は、その判断を技術面から支援できます。
エンジニア採用と育成の助言
採用面接へ参加し、候補者の経験や技術力が、自社で任せたい仕事と合っているかを確認します。
入社後は、設計レビューやフィードバックを通じて、メンバーが自分で判断できる範囲を増やします。技術顧問がいつまでもすべてを決めるのではなく、社内に判断できる人を育てることが重要です。
生成AIを使った開発体制の整備
生成AIを使えば、経験の浅いエンジニアでも短時間で多くのコードを作れます。しかし、出力が増えるほど、設計と品質を評価する仕事も重要になります。
AIが生成したコードは、その場では動いているように見えても、既存システムとの整合性や長期運用に問題を抱えていることがあります。経験の浅い人だけでは、途中の判断や成果物を十分に評価できず、問題を残したまま開発を続けてしまう可能性があります。
私は生成AIを使った開発へ継続的に取り組む中で、AIを使えるかどうかより、AIが作ったものを評価し、必要なコンテキストを追加できるかどうかで、プロダクト品質に大きな差が出ると感じています。
AIでエンジニアは不要になるのかでも、AIが実装する時代に残る技術判断について詳しく書いています。
技術顧問の現実的な関わり方
一つの例として、週3時間程度の定例と実作業を組み合わせ、日常的な相談はSlackで行う方法があります。
限られた時間で成果を出すには、技術顧問がすべての作業へ参加するのではなく、重要な判断へ集中する必要があります。
- 定例で事業と開発の状況を確認する
- 要件や設計のうち、リスクが高い部分をレビューする
- Slackで判断に迷う点を早めに相談する
- 必要な場面だけ、ドキュメント作成や実装へ入る
- 採用面接やベンダーとの重要な打ち合わせへ参加する
週3時間という時間だけで、開発チームの仕事を代行することはできません。一方で、相談する論点が整理され、技術顧問に必要な情報と権限が共有されていれば、判断の遅れや大きな手戻りを減らせます。
技術顧問とIT顧問・CTO代行・情シスの違い
これらの呼び方に厳密な業界共通の定義はなく、会社や提供者によって担当範囲が異なります。契約前には名称だけで判断せず、どこまで責任を持つのかを確認する必要があります。
IT顧問との違い
IT顧問は、社内で利用するITツールの選定、業務改善、IT投資の相談など、企業のIT活用を広く扱う場合があります。
技術顧問は、その中でもソフトウェア開発に近い領域を担当し、アーキテクチャ、コード、開発プロセス、エンジニア組織などについて専門的な判断を行います。
CTO代行・外部CTOとの違い
CTO代行や外部CTOは、技術戦略だけでなく、開発組織の責任者として予算、採用、優先順位、経営会議での説明まで担うことがあります。
技術顧問は、最終的な決定権を経営者や社内責任者に残し、専門家として判断を支援する関わり方が中心です。ただし、実際の役割には重なりがあります。
開発会社との違い
開発会社の主な役割は、合意した要件に基づいてシステムを作り、成果物を納めることです。
技術顧問は発注側に近い立場で、何を作るべきか、提案や見積もりは妥当か、完成したものを受け入れてよいかを確認します。
情シスとの違い
情シスは、社内ネットワーク、社員が使うPCのキッティング、アカウント管理、ヘルプデスクなどを担います。
これらは重要な仕事ですが、私が技術顧問として主に支援するプロダクト開発とは専門領域が異なります。社内ネットワークやPC管理を中心とする案件であれば、情シス支援を専門とする会社へ相談するほうが適切です。
技術顧問の費用は、時間だけでなく責任範囲で変わる
技術顧問の費用を比較するときは、月の稼働時間だけでは十分ではありません。
定例で助言するだけなのか、設計ドキュメントを作るのか、実装へ入るのか、ベンダーとの交渉や採用面接まで担当するのかによって、必要な準備と責任が変わります。
相談する際は、まず次の点を整理すると見積もりを比較しやすくなります。
- 解決したい経営・事業上の問題
- 現在の開発体制とメンバーの経験
- 技術顧問に判断してほしいこと
- 会議以外に必要な作業と成果物
- 技術顧問へ共有できる情報と与えられる権限
時間単価の安さだけで選んでも、必要な判断に参加できなければ成果は出ません。どの意思決定を任せるのかを先に決め、その関与に必要な費用を確認することが大切です。
技術顧問が向いている会社・向いていない会社
技術顧問が向いているのは、次のような会社です。
- エンジニアはいるが、技術方針と品質を判断する人がいない
- ミドル・シニアエンジニアを採用できていない
- 経営陣と開発チームの間で、判断が止まりやすい
- 開発会社の提案や見積もりを評価できない
- 生成AIを開発へ取り入れたいが、品質基準を作れていない
- 社内メンバーを育て、将来は自分たちで判断できる状態にしたい
反対に、技術顧問へ相談しても成果が出にくい会社もあります。
- 助言を受けても、社内で意思決定する人がいない
- 必要な情報を共有できない
- 技術顧問へ判断材料を渡さず、結果だけを求める
- 実質的にフルタイムの開発責任者や実装要員を必要としている
- PC管理や社内ネットワークなど、情シス業務だけを依頼したい
技術顧問は、週に数時間参加するだけですべてを解決する存在ではありません。経営者とチームが課題を共有し、提案をもとに実際の判断と改善を進めることで初めて機能します。
技術顧問を選ぶときに確認したいこと
経歴や使える技術だけでなく、次の点を確認することをおすすめします。
- 技術的な判断を、経営者にも理解できる言葉で説明できるか
- 新規開発だけでなく、本番サービスの運用を経験しているか
- できることだけでなく、リスクやできないことも説明するか
- 助言だけで判断できない場面では、自分で検証できるか
- 社内メンバーへ知識と判断基準を残そうとしているか
- 事業の優先順位と技術的な理想を切り離さずに考えられるか
技術顧問の価値は、難しい技術用語をたくさん知っていることではありません。会社の状況を理解し、複数の選択肢とリスクを示し、経営者とチームが納得して次の判断をできる状態にすることです。
まとめ
ミドル・シニアエンジニアを採用できない会社でも、開発を止める必要はありません。ジュニアエンジニアや外部の開発会社へ実装を任せながら、経験豊富なシニアエンジニアを技術顧問として迎える方法があります。
技術顧問に依頼できるのは、技術選定、安定運用を前提とした設計レビュー、要件定義、PoC、見積もり確認、ベンダー選定、採用・育成、生成AIを使う開発体制の整備などです。
重要なのは、開発作業をする人数だけを増やすのではなく、成果物を評価し、技術的な方向を決められる人を確保することです。
正社員として採用することが難しければ、まずは週数時間から外部の技術判断を取り入れる。その判断を社内へ共有し、チームが自分たちで進められる範囲を増やしていく。それが、技術顧問を活用する現実的な方法だと考えています。